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EXOTICA:青の洞窟 「cruel spiral arousal 《1》」

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消毒薬のつんとした匂いを感じ、チェンは目を開いた。
見知らぬベッドの上に、横たわっていた。
格子状に縁取られたアイボリー色の天井が視界の中に広がっている。
上半身を起こすと、側頭部から中心に向かって頭痛がした。
「ヒョン、目ぇ覚めた!?」
ぼやけたチェンの目の中に、おぼろなカイの姿がこちらに近付くのが映った。
「心配してたんだよ。どこか痛いところはない?」
「…あたまが…痛い」
「ちょっと待ってて。今先生呼んでくるから」
カイは入ってきたドアに向かって飛ぶように走った。あそこまでカイが慌てふためくのを久しぶりに見た、とチェンは思った。
カイが遠ざかると、徐々に頭痛は弱まっていき、代わりにまた眠気が襲った。

カイはナースの制止を振りきり、自ら担当医を探した。頭にあるのはただチェンのことだけだった。

前日、チェンは洞窟で、突然気を失い倒れていた。

あの個室のように別れた小洞窟の手前で、自身とカイが一緒の洞窟に入るということになったとき、チェンはじんわりと喜びに浸っていた。一方カイは、そこまで顔には出さなかったが、その得体の知れない道を進むのを実はかなり怖がっていた。そのことを聡く感じ取ったチェンは、カイにおどけた。
「もしこの先が異世界に通じてたら、俺たち二人でそこに行くことになるな」
周りから、期待しすぎだぞ、アホかと声が飛んだ。

足を踏み入れると、洞窟の奥から照らす青い色に二人は染まった。
『異世界にふたりで』
カイは先程のチェンの言葉が頭の中でリフレインしていた。
異世界に行く。
最近観たドラマで、そんなものがあった。交通事故に巻き込まれた拍子に、こことはまったく違う世界に転生してしまう話だった。
ありえないな、と当然だが思っていた。
だけど…、もし、異世界に…隣のチェンと一緒に、ここではないところに行くことができるのなら…。
そんなことを考えてしまうのは、この状況が日常とは違うせいかもしれない。
いつもはEXOのみんなと一緒で、チェンと二人っきりになるのはほんの短い間だけ。メンバーにもマネージャーにも、ましてやファンにも絶対気づかれてはいけない。そんな隙間を探して、二人は逢瀬を重ねていた。ロッカールーム、トイレ、シャワールームなどで、ダンス練習の合間、移動中のトイレ休憩、みんなが寝静まったあとに。
ちょっとしたお喋りやキス、そして時々忙しなくセックスをした。
こんなふうな非日常的な空間で、二人きりでいられるという幸運を得られたならば、今すぐにでも恋人としての情事に耽りたいところだが、カイは躊躇した。誰かがひょっと覗きでもしたらと不安だった。
しかし、カイのことをあまり気にする様子もなく、チェンはゆっくりと足を進めているだけだった。
「なぁ、ジョンイン」
洞窟中に、チェンの通りのいい声が響いた。
「もし、本当にこの先が異世界だったらどうする。そんで、超能力使えたら何する」
「超能力って、ヒョンが電気使えて、俺がワープできるってやつ」
「そうそう。もし俺がマジで電気使いなら、即行でジュンミョ二ヒョンのスマホにいたずらするな」
カイは声を出して笑った。だが異世界に行くということ自体には、やはりぴんと来てはいなかった。
魔法の使えるような、夢みたいな異世界になんて行かなくてもいいけれど。
カイは隣に立つチェンの、色の抜けた髪の毛を見下ろした。
ただ、二人のことを誰も彼もが祝福してくれるような世界だったら。
――そんな世界だったら、行きたい――

「なんか、扉があるな」
チェンが言うように、行き止まりである目の前に、大きな鉄の扉があった。
「いて」
チェンが扉のノブに触ろうとすると、バチと強い音が鳴った。手を引っ込めながらチェンは言った。
「もしかしたら、俺超能力に目覚めたかも」
「ヒョン。それは静電気だよ」
「いや、この扉を開けたら全然違うところに出るのかもしれないぞ」
「じゃあ開けてみようよ」
そう言って、カイはドアノブを握った。「これ開くのか?」とチェンが横で呟く。静電気も発生せずに、ドアはスイっと開いた。
ぶわっと、激しい風が二人を襲った。
あまりの風圧にカイもチェンも目を閉じ、風がやむのを待った。
数秒吹き込んだ突風が静まると、そっとカイは目を開けた。
瞬きをしてよくよく見た先には、龍は飛んでおらず、空に島も浮いておらず、そこは中世ヨーロッパのような世界でも、第三次世界大戦時の世界でも、動物が言葉を喋る世界でもなかった。ただの岩の壁だった。
「どうやって風が入ったのかなあ、ヒョン」
そう言って横を向くと、そこにチェンはいなかった。あれ?と思い視線を動かすと、チェンは目を閉じ、地面にばったりと倒れていた。

起きないチェンを抱きかかえ、みんなの元に照明の色が移ったように青くなったカイは走った。
急いで車に乗せ、カイも周囲の手に押されるようにして同乗すると、すぐさま近くの病院を目指した。

治療中のチェンを、カイと数人のスタッフは待合室で待った。
椅子に座ったカイは耳を塞いで俯いていた。
チェンが倒れているのを発見してから、ずっと耳が変だった。
ある一定の不協和音が、どこか遠くから絶えず反響している感じだった。
閉じた目の中で仰向けになったチェンの姿が浮かび、脳内で気色悪い音色が鳴り続けるのをカイは体を揺らして堪えていた。
誰かの手がカイの肩や背を慰めるように擦り、側に飲み物を置いた。でもカイは顔を上げず、あんなところに入ったことと扉を開けたことをとにかく悔やみ続けていた。

ナースから声を掛けられたとき、カイは自分が水底に沈んでいるような感覚に陥った。音波が真っ直ぐ鼓膜に届いていないように思った。だが構わず急いて、ナースのあとを一人付いて行った。

チェンに会えるのかと思ったら、カイはドクターの部屋に通された。
彼から、チェンには目立った外傷も、脳の検査における異常も、何らかの毒物を吸入したというような徴候も、全てなく、医学的には今睡眠状態であるという説明を受けた。
それを聞き、カイは少し安堵して、じゃあいつ目覚めるのでしょうかと尋ねた。
すると、それははっきりとは答えられないという返事が返ってきた。
驚いたカイに、ドクターは
「ただ眠っているだけですので、すぐに目を覚ます可能性はもちろん高いのですが、もしかしたら少々長引くことも考えられなくはありません。とにかく、少し様子を見てみましょう」
と優しく言った。
カイは恐ろしさが湧き上がると共に耳の中の雑音が増した。一刻も早くチェンの元に行き、目を覚まさせるべく声を掛けたいと思った。暗い顔をしたカイが、チェンのところへ行きたいと申し出ようとしたのと同じタイミングで、ドクターが覗き込むようにしてこう聞いてきた。
「キム・ジョンデさんとお付き合いされているということですが、一緒に暮らされている中で、睡眠障害に関係したような何か気になることなど、これまでありませんでしたか?」
呆気に取られ、カイは黙って彼を見つめた。
だが目の前の人物の顔には、真摯さと同情心が現れているだけだった。

様々な質問にしかたなくカイは正直に答えた。その後チェンの部屋に行ってもいいかを問うと、許可が出たのでドクターの元から去りながら、カイはそう言えばと思った。
カイは一人きりでドクターの話を聞いており、スタッフは誰もそこにいなかった。
焦っていたためそんなことに気を回していられなかったが、考えてみればこうした場合きっと自分でなく事務所の人間に話を聞くものだろうとカイには思えた。彼一人が送り込まれたのは、ドクターだけでなくスタッフにしてみても、カイがここにいる人間の中で最もチェンの身近な存在で、身内として振舞う権利があると判断したことによると考えると、つまり全員が二人が交際していることを知っているということになる。
いつの間にみんな知っていたのだろうとカイは混乱し、困惑した。そんなふうなことを誰からも言われたことはないし、それとなく匂わされたことすらない。知らぬ振りを示し合わせてされていたのかと思うと恥ずかしくなり、プライドを傷付けられもした。
だが今はそんなことに気を取られていられないと、カイは病室に向かいながらチェンに意識を集中した。なかなか起きなかったらと思うと、耳鳴りはいや増した。




続く





1 Comments

フェリシティ檸檬 says..."企画参加二度目でございますね!!^^"
βカロテン様


こんばんは!

一話が公開されましたね!!

このたび久しぶりに書かれたお話を読ませていただきまして、βカロテン様はさまざまな引き出しをお持ちの方なのだなあということをしみじみと感じさせていただきました。
お互いを思い合う気持ちが感じられるのは前回のお話でもそうでしたけれども、今回それがもっと伝わってくる描写になっており、ときめきを覚えました。

また、私を含めた他の書き手様とはアプローチを変えてらっしゃるところが素晴らしいなと思いました。
これこそ正に企画の醍醐味といった感じで、読者の皆様にも六者六様の世界をお楽しみいただけているのだなと思うと、ぞくぞくいたします!

素敵なお話をお送りくださりありがとうございました♪
βカロテン様とご一緒に夏を過ごせて嬉しいです、まだまだ楽しみましょう!


今後ともよろしくお願いいたします^^


フェリシティ檸檬


2017.09.26 19:32 | URL | #- [edit]

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