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EXOTICA:青の洞窟 「cruel spiral arousal 《2》」

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チェンの寝顔を見、しばらくしてからスタッフの元に戻って事情を説明してまた病室に引き返し、付き添って数時間が過ぎた頃、カイは彼が眠りから覚めたのを確認した。そして走り回る内に耳の異常はどこかに消えた。話をしたドクターを見付けてチェンの元に引っ張って行くと、またあらためて検査が始まった。
スタッフと合流してようやく人心地ついたカイは、再び待合室で待機しながら軽く食べたり飲んだりした。
そして今度はスタッフを含め呼ばれ、検査の結果は良好なので、今日はもう帰ってもいいと伝えられた。ただ数日安静にして過ごすことを強く勧められ、何か異常を感じたらすぐに病院に行くようにと念を押された。
周りにいる人間全員から、よく見ていろよとカイは視線でも実際の言葉でも言われ、どきまぎとした。しかしからかっているというのではなく、偽りない愛情のこもった彼らの表情や口ぶりに、困りつつもカイはどこか嬉しくなった。分かりましたと答えるカイは、誇らしく、胸のあたりが温かかった。

カイと、まだ多少ぼんやりしたままのチェンが、スタッフに送られてとあるマンションの前で降ろされた。
そこは事務所から20分ほど歩いたところにある住宅地の一角だった。
「ジョンイン。ここってなんだろう」
「なんか、兄さんと俺の部屋らしいよ」
「え、なんだそれ」
チェンの驚く顔を見て、やはりチェンも自分同様、そんな記憶はないのだと分かってカイは少々安心した。
「俺もさっき、初めて聞かされたんだよ。俺たちもう長いこと、ここで二人で暮らしてるんだって。冗談言われてるのかと思ったけど、そうじゃなかったみたい。ヒョンが倒れてから、なんかいろいろ変なんだ。とにかく中に入ろうよ」
チェンを車の中に乗り込ませるまでにスタッフの一人から今後についてなどの話を聞き、その中でこのマンションの話を出され、どうやってそこに入るのかと聞いたところ鍵忘れたのかと勘違いされ合鍵を渡されていたカイは、恋人の背中を押した。
手渡されていた金色の鍵をオートロック式のドアのインターホン横に付いている鍵穴に入れ、回すと透明な扉はスライドした。
合鍵には青いプラスチックの板が付いており、そこに部屋番号が記載されていた。
ドアを通って、二人はその番号の部屋に向かった。

お目当ての部屋は10階にあった。
部屋は2LDKで、かなり広々としていたが、作りとして何よりも目を引いたのは、リビングの真ん中に螺旋階段があることだった。メゾネットタイプと言えるそこは、階段を上った先は寝室となっており、大きなベッドが並んでいた。
カイが二階に上がり、その枕元に回ってみると、戸棚に写真が並んでいた。そこにはそれぞれ、飼い犬、家族、チェンとくっ付いたカイが映っていた。
このチェンと映った写真は、その場の思いつきで勢いで撮ってしまったもので、こうやって写真立てに入っている様を見ることは絶対にないだろうとカイは思っていた。
ぴったり隙間なく置かれたベッドと、その近くに置かれた二人の写真を見下ろして、カイはなんとも言えぬ心境になった。
そんなカイにチェンの高い声が届いた。
「ジョンイン。降りて来てこれ見ろよ」
名残惜しげに一瞥をまた寝室に投げてから、カイは下に向かった。
チェンはテレビを見つめていた。映っているのは情報番組で、そこに彼らのMVが流れていた。そして、その下にEXO チェンが怪我、活動休止か!?と大きくテロップが出ていた。音楽は流れたまま画面が切り替わると、チェンとカイの大きな写真が映し出され、テロップは「恋人のカイ、病院内でテンヤワンヤ」と変わった。
病院の外で捕まえたらしい通院患者から、カイが医者を探して走り回っていたという証言を得た映像が続いて流された。
立ったまま呆然と画面を見つめながら、
「なぁ、ジョンイン。これは大掛かりなドッキリか何かかな」
とチェンは言った。
「こんなドッキリ、ありえなくない?」
「なら、今ここで言ってることとか、この家はなんなんだよ」
「…分かんない…」
その特集コーナーを見終えると、チェンは静かにテレビを消した。

螺旋階段下に設置されたたっぷりとしたソファに腰を下ろし、カイはチェンに話を始めた。
「ヒョン、ヒョンはこれから三日間、休みになったんだ」
「え?さっきのマジなの?仕事は?」
「なんとかするって」
「なんとかなんてなんなくないか?」
「俺らだけでまず進められるだけ進めるって」
「俺できるよ」
「ダメだよ。医者からも言われてるんだよ、数日無理はさせるなって」
「でも…」
「もう決まったことだから、とにかく休んで。俺たちみんな心配なんだよ」
「…ごめん」
「謝んないでよ。こうなったら、思う存分休暇を楽しみなよ」
カイは辺りを見回して笑って言った。
「こんないい部屋にいられるんだしさ」
チェンも部屋の中を見渡し、力の抜けた顔で言った。
「…なんなんだろうな、一体…」
気落ちしたチェンを見てカイは自身も気持ちが沈んだ。体の故障で仕事を休まなければならなくなった経験を自分でもしていることで、チェンの気持ちがよく分かった。
「ヒョン」
「ごめんな」
「え?」
「俺と付き合ってるとか、訳分かんないよな。俺も分かんないけど。その上今なんにもお前にしてやれなくて、本当にごめん」
カイは言われたことを頭で繰り返し、しばらくしてから聞いた。
「…ヒョン、ヒョンは、俺と付き合ってる、よね…?」
上目遣いでそう質問すると、小首をかしげてチェンは噴き出した。
「何言ってるんだよ。どうしてお前が俺と付き合うんだ」
チェンらしい笑顔でそう言われ、カイはチェンが倒れているのを見たときと同じくらいの激しいショックを受け、黙った。

チェンを寝室に連れて行くと、目を丸くしたチェンは、
「マジで俺らカップルなんだ」
と呟いた。
横になって、先程カイが見つめた二人のショットをチェンも見つけると、こんなの撮ったっけなあ、と言い、またもやカイは胸が締め付けられた。
「いいから寝なよ、眠いんでしょ」
布団を掛けながらカイが言うと、ごめん、ありがととチェンは返し、あっという間に本当に眠りに落ちた。
少しの間寝姿を見守ってから、カイは下に降り、リビングにあった自分のノートPCからネットでグループのホームページやファンクラブの掲示板、ツイッターなどを確認して回った。それに何も問題はなく、ただチェンのこと、そして彼の恋人としてのカイのことをファンが心配しているだけだった。
続いて検索ワードを入力した。
「EXO カイ」と入れると、予測検索項目に「恋人」の文字が出た。クリックすると、検索結果の中にカイとチェンが如何に恋人同士になったのかについて、まとめられているサイトがあった。
それを覗くと、お互いが好きになった経緯、いつから付き合っているのか、どのように世間に公表したのか、そして今回のチェンのことでカイが病院内を駆けずり回ったということまで書かれてあった。そして、出来事ごとのファンを始めとした人々のリアクションもそこには添えられていた。当初確かにかなりの動揺はあったが、二人の幸せがファンの幸せということでおおむね見解が一致し、皆で祝福をするという結論に至っていた。
液晶から目を離し、立ち上がったカイは部屋の中を意味もなく歩き回った。
大変な衝撃だったが、病院で感じたようなあの曰くいいがたい幸福感が彼の体に再び満ちていた。
でもチェンは自分と付き合ってなどいないと思っている。
それを思い出すとなおさらカイの歩きのスピードは速まった。複雑な感情を持て余し、食事も摂らずに階上へ行くと、チェンの寝ていない方のベッドに横になって目を閉じた。そしてそのまま眠ってしまった。

夢を見ている。
夢の中でそう感じることを、日本では明晰夢と言うのだと、日本のプロデューサーから聞いたことがある。
ライブの練習を終え、チェンと一緒に自宅に帰る途中買ったテイクアウト品を、なんということもない話をしながら食べ、お酒を飲みながら過ごし、寝る。
二人は恋人同士だ。誰をはばかることもない。
でもこれは夢だと知っている。だからカイは泣いた。夢の中でチェンが心配そうにカイを慰める。それでもっと、涙は流れた。



続く




1 Comments

haruyuki2 says..."はじめまして"
はじめまして
haruyuki2 と申します。

メンバーが発表になった時にブログにお邪魔して、『Sword and Sorcery』を読ませていただきました。お話が面白いのはもちろんですが、着眼点がすごいです!今回の企画のお話でも、フェリシティ檸檬さまの『他か書き手さまとはアプローチを変えてらっしゃるところが素晴らしいなと思いました』というコメントにもある通り、自分の中には、洞窟から出て行くという発想が全く無かったので、お話を読んだときは、とても驚き、感心いたしました。そして、今回ご一緒することできて、本当に嬉しく思っております。

今回のお話も、カイの不安とか苛立ちがリアルに伝わってきて、部屋中を歩き回ったり、ベッドで夢だと泣くカイが切なくて、これからどうなるんだろうとハラハラしております。゚(゚´ω`゚)゚。

もうすぐ折り返しですが、この先のお話も楽しみにお待ちしてます。

haruyuki2
2017.09.28 17:15 | URL | #- [edit]

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